現在劇場上映中の「ALWAYS~三丁目の夕日~」を淡路東宝で見てきた。
そしたら、貸し切り状態だった。観客は私ひとり。
淡路をご存じない方のために。
大阪市の一番北に位置する下町で、私の住んでいる吹田市に隣接している。私の家からは二駅、約十分。
いや、はじめて行ったのだ。
何となくこの映画を見るのにふさわしい感じがした。行き帰りに目にする風景が、似つかわしいような…。
この映画は昭和三十三年の東京を舞台にしている。
当時、私は1歳。とりあえず、この時代に息はしていた。
氷を入れる冷蔵庫も、脚つきの白黒テレビも覚えている。
この映画は、この時代の雰囲気を知っている年代と、まったく知らない年代とで受け取り方が、多分正反対くらい違うだろうな。
監督からして、知らない世代だが。
心暖まるストーリー、といいたいところなんだが、ストーリーそのものはありきたりである。
というのは、おそらくこの映画の主役は、俳優でもストーリーでもなく、美術だからだ。
あえて言ってしまうとこの作品は、取り上げている題材とは関係なく、最近の風潮に乗った映画である。
ストーリーや演技ではなく、ビジュアル的な作り込みをフィーチャーした映画だ。
この時代の都会の雰囲気は、実によく綿密に作り出されている。
美術チームは、素晴らしい仕事をしていると思う。
監督がVFXクリエイターでもあるせいか、合成も徹底して自然に見えるようにこだわっている。プロの目で見ても違和感はない。
おかげで、その時代にタイムスリップしたかのような気分が味わえる。
しかし人物造形はどうだろう。
原作が漫画だから仕方がないのかも知れないが、デフォルメしすぎではないだろうか。
特に吉岡秀隆扮する作家と堤真一扮する自動車修理屋の社長は、冒頭奇妙に高ぶったテンションで、いまいち引いてしまった。
話が進むにつれて普通になっていったが、乗り切れなかった。
こんなリアルなセットなのだから、普通のテンションの方が絶対に合うはずだ。
吉岡秀隆の妙に裏返る独特の声が、気にさわって仕方がなかった。
これに比べて女優陣は、小雪にしても薬師丸ひろ子にしても好演。
青森から集団就職してきた少女を演じる堀北真希も、らしく演じている。
>今ほど便利でも、裕福でもなかったけれど…、
と宣伝文句にあるけど、不便さなんてそんなに感じていなかったはず。というより、どんどん家電製品などが登場してきて「便利になったなあ」という言葉が日常会話になりはじめた時代のはしりだと思う。
それに、この映画の登場人物たちはそんなに貧しいとは思えない。
自動車修理屋の一家は、テレビ、冷蔵庫、洗濯機(は画面には出てこなかったけど、たぶん脱水器の代わりに洋服がノシイカのようになるローラー付きだ)の三種の神器を全部揃えている。
作家は、自分の目指す文学雑誌にこそ投稿しても載らないものの、子どもたちの愛読する雑誌に少年冒険小説の連載を持っている。
この時代の庶民としては、裕福な方だと思うよ。きっと。